「中学受験の失敗学」 志望校全滅には理由がある
著者:瀬川松子
異色
新書で刊行され、ネガティブな用語を題に入れる、それだけでも中学受験本としては異色とも言える本です。2008年の出版になりますから、今から10年前に刊行されたものになります。受験本は合格、必勝などポジティブな表題や内容が多い中で真逆であることが、長い間生き残っている理由なのかもしれません。
著者
著者は、四谷大塚系列の塾講師歴のある家庭教師だそうです。「序にかえて」で、ちまたに出回る中学受験合格のためのアドバイスへの疑問が執筆の動機と述べています。また、底辺から浮上して希望通りの学校に入るケースは、実際には一握りの奇跡でしかないが、ここの塾にお願いすればうちの子も…と思わせる効果が大きく、受験産業は大いにそれを活用していると述べているので、受験産業の姿勢に対する疑問もありそうです。
「ツカレ親」
本書では中学受験に取りつかれ、暴走の末に疲れ果ててしまう親を「ツカレ親」と名付けて、志望校全滅の元凶になりうるその問題に迫っています。「ツカレ親」の最大の特徴は、「頑張れば必ず目標を達成できる」と言う根拠のない信仰、そして、「塾や家庭教師にかけた時間」=「子どもが頑張った時間」という勘違いであると説いています。
中学受験では不合格者に関する情報はあまり出てきません。それは、子ども、家庭、塾、家庭教師にとって、誰もが口にしたくない、視線をそらしたい現実。合格者と不合格者の情報のアンバランスが「ツカレ親」育成に一役買っていると考えているとのことでした。
内容
以下は、章別の内容です。
第一章 止まれないツカレ親の暴走 - 驚愕エピソード集
業界裏話も含めてエピソード9まで極端な例が紹介されています。個人的には親以外のエピソードの方がえっ!というものがでした。
第二章 ツカレ親を分析する
16項目のツカレ親度チェックがあり、半分以上チェックがついたたら要注意とありました。ツカレ親は「悪い親」ではなく、問題になるのは度を越して中学受験にのめり込み、過剰な学歴至上主義や努力信仰の果てに、合格と反対の方向に暴走することと述べています。ツカレ親のタイプを提示し、問題点を分析し、めったに起こらない奇跡(大逆転合格)の背景を示していました。
第三章 対策編 - 志望校全滅を避けるために
志望校全滅を避けるため、前提として中高一貫校が夢のような学校でメリットばかりなのか?、志望校設定は適切か?、土壇場での学習法は?、受験産業に食い物にされない方法など著者の処方箋が書かれていました。
私見
元々中学受験に関する情報は、現在まで一部の上位層に偏っていて、それ以外の大多数にとって有用な情報が少ないのは間違いありません。そんな中で暴走する「ツカレ親」になったり、拝金主義の塾や家庭教師に翻弄される場合もあると思います。
中学受験で惨敗するケースは、①何でも習いっぱなしで、復習の時間をほとんど取っていなかった、②塾や家庭教師の過密スケジュールのせいで、かえって知識の整理・定着がさまたげられていた、③子どもの偏差値をはるかに上回る学校で、第二志望以下も固めていた、などの傾向が強いと記述されていましたから、逆に言えば、親がキチンと情報を収集して、分析・評価し、行動できれば、中学受験で惨敗する可能性が低くなるはずです。そんなことを自覚させてくれた本でした。
この本は、「志望校全滅を避ける」という方向性に基づいているため、学力を伸ばしたり、難関校に合格するアドバイスは書かれていません。提示されている例は極端ですし、あえて中学受験のネガティブな面を強調した内容になっています(一部は笑える読み物!?)。陰と陽、光と影、何ごとにも反対の側面はありますので、こういう内容のものを読むのも「あり」だと思った本です。
(F)