『田代式 中学受験 国語の「神技」』
著者:田代敬貴
『田代式 中学受験 国語の「神技*」』は、2010年初版第1刷発行で、我が家は2016年第7刷を購入しました。
*神技:シンギ (カミワザではありません)
巻頭において、著者の田代先生は、執筆の時点で30年近く中学受験国語の指導歴があると記述しています。指導歴が長いベテランですが、学習塾国語部長⇒進学塾常務取締役⇒フリー(寺子屋式授業)という経歴は、非業界人の私から見ると少し異質のような感じがします(違っていたらゴメンナサイ)。
はじめに
この本では、これまで門外不出にしてきた<技>(スキル)を明かしているとのことです。あえて明かすのは、中学受験指導のうえで、最大の鬼門となるのが国語で、国語の問題は、素人でも解答を読んでその場しのぎの「解説」はできても、普遍的に使える「解き方」を教えることができないからだそうです。
2つのその場しのぎのというべき指導の実例
①塾講師や親の指導をきっかけとして、問題文にやたら線を引く生徒がときどきいるが、本来は文章理解に向けられるべき集中力が、線を引く作業によって低下してしまう。
②記述問題を解答する時に「大人の言葉」を使って書けという指導も一見もっともに思えるが、小学生の多くはたとえば「親近感」「自己嫌悪」「葛藤」など抽象語を教えられても、それを使いこなせない。
先生の見解では、いずれも成績不振、成績が下がる原因となるそうです。塾の国語講師で「線を引く」という指導をしているかたもいますね。もちろん、「線を引く」指導といっても全部ではないはずですが…。
以下は簡単な内容紹介です。
第一部 「読む」ための<技>
一章 「はじめに文章を読むことありき」
まずは、文章を一気の読みきる集中力を養う必要があり、1分間400字音読トレーニング、一文要約トレーニングを行う。
二章 読書と受験国語の違い
受験国語は通読の読書と異なり精読のゲームなので、「物語文」といえども「説明文」の読み方をする。
三章 「映像化して(絵に描いて)」読む
精読方法の一つで、詩を理解するうえで特に重要。
四章 「図式化して」読む
精読方法の一つで、絵にならない文章を、図や表に整理して考える。
五章 文章を「かたまり」で読む
説明文を「話題のかたまり」で読む。「同じ言葉」のくり返しに注意する。新しい言葉の登場に中止する。「例」と「まとめ」を読み分ける。大切なこと・言いたいことはくり返される。
六章 「人物の二面性」を読む
「~はどのような人物か」という設問を見たら、まずは「二面性」で攻めてみる。
七章 「人間・人生に結びつけて」
文章を読む時に「人間・人生に結びつけて」考える。特に詩の理解では、「絵に描いて」「人間・人生に結びつけて」考える。
八章 「過去の回想パターン」を読む
現在の筆者の心情と回想部分では反する感情が述べられていることが多い。「親」とは「愛情・苦労」を持つ存在だと「覚えさせる」
六~八章は、子どもが理解しにくいので、子どもが「学んで覚える」必要があることがらだそうです。
第二部 「書く」ための<技>
一章 「伝わらない言葉」「成り立たない会話」
「単語だけ」の会話をしない。日頃から、相手の質問に対する答え方を考えて話す訓練をする。
二章 生徒の答案から学ぶ「書く」ための三つのポイント
長い一文を書かない。常に主語を明確にして描く。同じ言葉や言い回し、同じ内容をくり返さない。
三章 記述問題の分類とその攻略法
①心情・理由説明型: 書く前に、答えのポイントを短い言葉で考える。その<決め手の一言>で答案をしめくくる。
②要約型: 書く前に材料をそろえる。百字→二文で書く。説明文の記述問題はパーツとセメダインで書く(勝手にアレンジしない)。<答案のわく組み>を考えてから書く。
③換言型: わかりにくい言葉を部分的にわかりやすい言葉に言い換える。
④体験・感想型: <受験生の自覚>と<練習量>で<逆境打開力>を養う。本、新聞、テレビ、日常会話などで<情報の「引き出し」>を増やす。<常識的判断><道徳的判断>を身に付ける。
まとめ
田代先生が国語にも明快な<解き方>があると生徒に納得させられるかを考え続けた成果が本書『田代式 中学受験 国語の「神技」』です。メインテーマは記述問題への対処法です。それは、記述問題が解ければ、選択式問題も解くことができるという観点からくるものです。
小学生が読むには難しい内容ですので、対象は大人になります。帯にも『今日から子どもに教えられる究極の「国語記述」の<技>』と書かれているとおり、塾講師または親が教えるための本です。しかし、親がこのまま教えるには難易度が少々高いと思います。自分も自信がありません(汗)。
私は、第一部「読む」ための<技>の方が参考になりました。また、第二部三章の記述問題の分類とその攻略法が凄いと感じました。
例題の出典は難関校ばかりですので、難関校志望者向けと思われがちですが、エッセンスは中堅校以上なら適応できると思います。中学受験国語の読解法の本ではオススメの一冊です。
発行から8年経過しているので、“賞味期限”が短い受験関連本としては息が長いと言えると思います。しかし、その分例題(出典)がかなり古くなっているのは否めません。普遍的な解き方を教えている本ですが、もしもそのことで信頼度が落ちる印象を持たれるとしたら残念だと思います。
(F)